第三章 - 5/7

 透は走る。だが、追っ手が背後に迫る。少し広めな部屋に逃げ込んだが、そこには待ち伏せていた敵の姿があった。
「くそっ……! 待ち伏せか……!?」
「もう逃げられないぞ! おとなしくディスクの在りかを吐け!!」
 敵は出入り口を塞ぎ、透を取り囲む。絶体絶命な状況だった。

「あった、あの車!!」
 タクシーで透を追いかけ、何度か見失いながらも、ワゴン車を発見することができた四人は廃工場にたどり着いた。
「君たち! 警察には連絡したのかい!?」
「しました!」
 匠がタクシーの代金を払う。
「おじさん、ここで待ってようか?」
「いえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
 タクシーは去り、この場には四人だけになった。
「二手に別れて透さんを探したほうがいいんじゃないか?」
 匠の提案で二手に別れることにした。
「なんかわかったら、匠の携帯に連絡してくれ! 俺らもみちるの携帯に連絡するから!」
「わかった! あんたたちも気を付けなさいよ!!」

 みちる、よしみは正面から、翼、匠は裏口から透を探す。
 裏口から入った男子二人は見事に迷っていた。
「なあ、翼……俺たち絶対迷ってるだろ……」
「気のせいだ!! 俺は迷ってるなんて認めないぞ!」
 とりあえず手近なドアを開け、入る。と、そこには男が一人佇んでいた。
「うおあっ!?」
 人がいるなどとは全く思っていなかった翼はめちゃめちゃビビる。その声に驚いた匠は変な感じに扉を閉めてしまった。
「あっ!? やばっ! ドア開かねえ!?」
「なんだと!?」
「お前がいきなり大声出すから!」
「だって! 人がいるなんて思わないだろ普通!?」
 二人がやいのやいの言っているうちに男は正気を取り戻したのか、二人を見た。
「……お前ら、見ない顔だな」
「え、あ、そ、そうですかあ? あははは……」
「あっ!? お前!? 偽雨崎!!」
 男は翼を見るなりそう言う。
「にせうざき??」
 しかし翼には意味がわからない。
「お前……俺の顔、覚えてねえのかよ……?」
「???」
「覚えてねえのか、なら好都合だ! このまま、俺と一緒に死んでもらう!!」
 男はポケットからライターを取り出した。火をつけて床に落とすと火が一気に燃え広がっていく。
「うえええええ!? なんでええええ!? 翼!! こいつのこと覚えてないのか!? こいつお前のこと知ってるみたいだぞ!? 思い出してやれよ! 思い止まるかもしれないだろ!?」
 匠に肩を鷲掴みにされカックンカックンされながら翼は思考を巡らせる。
「匠! あいつはじめから火をつけるつもりだったんだ! だから俺が覚えてるか覚えてないかはそもそも関係ない! 考えなきゃいけないのはなんで俺があいつを覚えてないかってことだけど……」
 翼はそこである答えにたどり着く。
「あいつ……俺を刺したやつだ!!」
「はああああ!?」
 燃え広がった炎は部屋の中の段ボールを燃やし、扉を塞ぐ。
「つ、翼!! とりあえず逃げよう!! こいつの正体はまたあとでだ!」
「あっ、そうだな。このままじゃ俺たち死んじゃうな。でも開かないんだろ? どうするか、誰か気づかないもんかな」
「気づくわけ……ないだろ……ゲホッ、ここは……防火壁だ……燃えてることなんて……気づかない……」
 煙を吸ってぐったりした男は咳き込む。
「蹴破ろう! 火傷とかこの際しょうがねえ! 死ぬよりはましだ!」
「そうだな! こいつに死なれても困るし、ちゃんと罪は償ってもらわないと」
「よっしゃ! じゃあいくぞ! せーの!!」
 二人は助走をつけ同時に扉に体当たりした。

 正面から入ったみちる、よしみは奥の方から大きな物音を聞いた。
「な、何? この音……」
 二人は音の出所を探るため、壁に耳を当てる。
「向こうの部屋からみたいだよ……?」
 音に近い方の扉に向かう。扉の向こう側から数人の男の罵声と先ほど聞いた音が聞こえた。大きなアルミ缶をぶつけているような……そんな大きな音だ。
「西屋ァ!! テメェよくも裏切りやがって!! ディスクはどこだ!! 吐け!!」
 その言葉に応える声はない。一瞬の間のあと、今度はガラスの割れる音が聞こえた。
「いつまで黙ってんだァ!? アァン!?」
「……誰が、言うものか!! お前たちに渡るくらいなら、死んだ方がましだ!!」
 聞き覚えのある声。確かに、この扉の向こう側には透がいる。
「透さんだ! よしみ! 向こうの部屋に透さんがいる!!」
「急いで助けるわよ!」
 よしみはガチャガチャとドアノブを回す。だが、鍵がかかっていて開かない。
「ダメ開かない!! ……あ、みちる! 髪留めてるピン! ちょうだい!」
「えっ? これ? ……って、まさか!」
 みちるは小学生の頃に流行っていた手口を思い出した。
「そう、その、まさかよ!!」
 よしみはみちるからピンを受けとると、鍵穴にピンを突っ込んだ。

 透は割れたガラスの破片でまたロープを切り、雑魚を倒していく。ガラス瓶で殴られた頭は切れて、血が滴り落ちていた。
 流れる血で視界を遮られる。それでも、残っている雑魚たちを次々にのしていった。
そして、残りはあとひとり。
「……後は……お前だけ……」
「そんな状態で、俺に勝とうと? ハッ! 無謀だな。わからないのか? お前は、ここで終わりだ」
 男は拳銃を持っていた。銃口を透に向ける。
「……!!」
「お前が暴れてくれたおかげで俺の仕事がやり易くなったよ。逆にお前はどうだ? 暴れすぎて疲れただろう? その時点でもう勝負はついてるんだよ」
 男の言う通り、透の体力はもう限界だ。頭から血を流し、肩で息をしている。
「死ねっ!」
 男が引き金を引くのと、よしみが鍵開けに成功し、ドアを開けたのはほぼ同時だった。