第三章 - 3/7

 匠はバイトを終えて、翼の家に向かっているところだった。時間にすると、午後一時過ぎ。このくらいならちょうどいい時間だろうと思いつつ歩いている。
「雨崎なー……たぶん同類なんだよな……。俺も一緒についてけばよかったかな……」
 前々から同じ香りは感じていたがバイクのローンもある。悔しがりながら歩いていると、進行方向から見知った人物が走ってきていた。
「あれ? おーい、透さーん」
 匠は声をかけたが、反応はない。目は合ったので、あえてのスルーでそのまま走り去っていったのだろう。
「シカトかよっ!? おいっ! ちょっと待ちやがれ!!」
 匠は透を追いかけ始めた。
 必死に追いかけるが、透の足は速い。運動部に入っていない匠はすぐに見失ってしまった。
「くっそ……見失った……」
 匠は肩で息をしながら辺りを見回す。と、突然路地裏に引き込まれた。
「……!?」
 口を塞がれ、腕を極められた状態で壁に押し付けられる。暴れようとした瞬間、探していた人物の声が上から落ちてきた。
「匠くん……手荒な真似してごめん……怪我するから暴れない方がいい」

「……透さん、あんた、なにやってるんだよ? 翼の家にいたんじゃなかったのか?」
 匠は目の前にいる透に詰め寄った。
「……」
 だが、透は匠から目をそらす。
「……雨崎くんの身柄はもう保護されてる。相手が狙うべきなのは、あと僕しかいない。この町に僕がいることはもう相手に知られてしまった……。だから……」
「だからなんだよ。俺たちは協力するって言ってんだ。黙ってどっか行くなんて許さないぞ」
「でも……君たちを危険な目に遭わせるわけには……!」
 二人が言い争っているうちに、透を追う人物が近づいてきていた。
「まずい……。匠くん、逃げるよ!!」
 透は匠の腕をつかみ、走り出した。

 全速力で走っていくうちに、気づくと行き止まりに入ってしまっていた。後ろには追っ手が迫る。
「ど、どうすんだよ!? 行き止まりじゃねえか……!」
「匠くん……! だったら、応戦するまでだっ!」
 透は廃棄されていた折れたホウキを拾った。
「透……! 早くディスクを渡せ!!」
「誰が……! 渡すものか!」
 突っ込んでくる追っ手の鳩尾にホウキの柄を命中させる。くぐもった声をあげて崩れ落ちる相手の後ろにはまだまだ新手が迫っていた。
「ま、まだまだいるぞ……!?」
「追っ手はまだ来てるんだ! 手を止めないで!!」
 匠は壊れたモップで来ている追っ手を殴る。
 追いかけてきた相手を全員戦闘不能にすると、透を捕まえるために持っていたであろうロープで全員をまとめて縛った。
「……さあ、ここから離れよう」
「透さん、あんた……」
 透は再度、匠を連れて走り出した。

 翼たちが三人で歩いていると、走っている透と匠に出くわした。
「あれ? 透さん……匠もどうして走ってんだ?」
 透は翼たちを確認すると、掴んでいた匠の腕をパッと離し、足をかけた。
「うごあっ!!」
 匠はその場でべしゃりと転び、透はそのまま走り去っていく。
「うえっ!? 透さん!? なんで行っちゃうの!?」
 みちるが声をかけるが透は止まらない。
「匠! 大丈夫か!?」
「眼鏡は無事だ……それより! 透さん追いかけないと! あの人追われてる!!」

(ごめん……みんな……!)
 透は無関係な彼らをどうしても巻き込みたくなかった。だが、それは彼らとの約束を破ることになる。それに対して激しい罪悪感を抱いていた。
 彼らはとてもいい子達だった。身元もわからない怪しい大人をいとも簡単に受け入れてしまう。素直というのか、騙されやすいというのか。
 だからこそ、透はこれ以上迷惑は掛けられなかった。
 追っ手はすぐそこに迫っている。どこからともなく、大勢。
「いたぞ! 囲めー!」
 透を取り囲んだ追っ手は一斉に襲いかかった。