「……雨崎くん、失礼するよ」
秋山がドアをノックし、返事を待つ。
「また警察か。俺はもう全部話したぞ」
「君に会いたいって人がいるんだ。会ってもらってもいいかな?」
雨崎は不機嫌そうだ。神宮はおろおろしながら秋山の様子を見ている。
「……俺に会いたいやつ? ……組織のやつじゃないだろうな?」
「違うよ。君とは初対面なはずだ」
「誰だ」
「君と同じ手口で襲われた高校生だ。君の話を聞いてちょっと気になってね」
「……」
雨崎はしばらく黙っていたが、雨崎も気になったのだろう。ドアを開けてくれた。
雨崎は写真で見た通りの茶髪の男だった。身長も翼と同じくらいだ。
「俺と同じ手口で襲われたって本当か」
五人で病室に入り、自己紹介をする間もなく、雨崎は翼に訪ねた。
「お? お、おう」
「……俺、刺される直前にまだ生きてたのか的なこと言われたんだよな……」
「……同一人物の犯行ね……」
「彼は山下翼くんだ。君が襲われた三日前に襲われているんだ」
「俺より先に……? ってことはあいつのあの台詞……やっぱりそういう意味だったのか」
雨崎は少し申し訳なさそうな表情で呟く。
「そこの茶髪二人、後ろ向いて並びなさい」
なぜかよしみが翼と雨崎に指示を出し始めた。
「お前誰だ」
「翼の友達よ。ほら、早く」
「修ちゃん、ゴメンね? ちょっと並んでもらえる?」
みちるも雨崎の腕をつかみ、翼の隣に強引に並べる。
「だから、あんたら誰だよ!?」
「まあまあ、ちょっとだけだから付き合ってくれよ」
みちるは翼と雨崎を並べて、よしみのところに戻る。
「どうですかよしみさん? あなたの見解をお聞きしたい」
「そうですねみちるさん、透のいう通り暗いところで後ろからなら見間違えそうですよ?」
「みちる? よしみちゃん? いったい何を……?」
秋山が困惑している中、神宮は頷きながらみちる、よしみと一緒に二人の後ろ姿を見比べている。
「君たち身長あまり変わらないんだね? 見たところ、一七八センチってところかな?」
「お、ビンゴです。俺、四月の身体計測の時そうでした」
「で、君たちは何を確認したかったの? 山下くんと雨崎くんの身長があんまり変わらないっていうのはわかったけど……」
「私たちが思ったのは、翼と雨崎が間違えられたんじゃないかってことよ」
「修ちゃんが襲われたときまだ生きてたのか的台詞を言われたって言ってたでしょ? 襲った人は翼くんを襲って修ちゃんを殺したと思ってたけど、実際は翼くんだったから修ちゃんを襲ったときにそんなことを言ったんだよ」
二人の話を神宮は興味深げに聞いている。だが、秋山はそうもいかないようだ。
「確かに、手口も似ているし、二人の背格好も似ている。かといってすぐに決めつけてしまうのは早計すぎるだろう?」
「でも、俺の記憶は役に立ちません。なんにも覚えてないですし、だったら可能性に掛けるべきじゃないですか」
「お前、記憶も飛んでたのか……」
雨崎はさらに申し訳なさそうな表情で翼を見る。
「なんで修ちゃんがそんな顔してるんだよ。俺の記憶が飛んでるのは修ちゃんのせいじゃないだろ?」
「でも、本当に俺と間違えられて襲われたんだとしたら……申し訳なくて……。……って言うかなんで修ちゃんなんだ……」
「あ、ごめんね? 私はみちるだよ。あとこっちはよしみ」
「そうじゃないんだけど……まあ、いいや。ところでさ、『透』ってさっき言ってなかった? それに、俺のこと前から知ってたみたいだし」
雨崎も話していくうちに気になることが出始めたようだ。
「うん、透さん今うちにいるから」
「……その透って……西屋透か?」
「うん」
「……何でだっ!? なんでお前んちに西屋が?」
「組織の人に追われてるらしい。ウイルスがなんたらかんたらって」
翼はコンピューターに弱かった。匠と透の話は聞いていたが、いまいち内容を理解できていなかったようだ。
「修也が作ったコンピュータウイルスを透が持って逃げてるのよ。それで、翼が透を匿ってるの」
「へっ!? ってことはあんたら、巻き込まれてるの!? この抗争に!?」
雨崎はぎょっとして翼、みちる、よしみの三人の顔を見る。
「ちょっと待って。お兄さんたちを置いていかないでもらえるかな? わかんない、なんの話してるのか全然わかんない」
「……みちる、まさかまた危ないことに巻き込まれてるんじゃないだろうな」
警察二人、特に秋山が静かな威圧感を出している。まあ、警察官としてというよりかは父親として、なのだが。
「抗争はちょっとよくわからんけど、匿ってほしいって言われたから」
「でも、おかしいぞ? 西屋はあの組織の上の方のやつだ。あいつが組織を裏切ったっていうのか?」
「透さんスパイなんだよ。だからたぶん組織には入ってなかったんじゃないかな?」
「……それにしたって、なんで今このタイミングで抜ける必要があったんだ……?」
「それはわかんないけど……」
雨崎は首を傾げた。
「……みちる、話は終わってないぞ」
「ええ~……」
「なんでお前はいつも危ないことに首突っ込むの!? お陰で不良に目をつけられちゃったり、よくわからない手紙が届いたり! お父さん気が気じゃないんだから!?」
秋山家のお説教が始まった。みちるが捕まっている間にさらに話を続ける。
「状況をまとめようか。雨崎くんが所属していた組織の上の方の人が実はスパイで、山下くんの家で匿っているっていうのがさっきまでの話だね? で、山下くんは雨崎くんと勘違いされて襲われた可能性があると」
「そうですね」
「……そうだ、西屋はウイルスを持ってたか?」
「いや? もう隠したって言ってた。ほとぼりが冷めたら処分するつもりだって」
「……じゃあ、俺からディスク奪ったのは西屋か……」
「……ややこしいな……時系列で見てみようか」
神宮はメモ用紙を取り出した。そこに日付とあった事を書き込む。
「えーと? 一番始めに起こったことは……?」
「俺がバックアップごとディスクを持ち出して組織から逃げたことじゃないか? 確か十六日の朝だ。でもその日のうちにディスクはバックアップごと奪われた。夕方くらいだったかな」
「俺が襲われたのが、十六日の夜? でしたよね?」
「うん、山下くんが発見されたのは十六日の午後九時頃だ。そのあと十九日の朝まで意識不明で、その日のお昼前に病院から逃げ出したと」
「……それはもういいじゃないですか」
「俺が襲われたのは十九日の午後十一時頃だったはずだ。そして今朝まで寝てたと」
「俺が透さんを匿ったのは二十日の午後一時半くらいだ。その時にはもう何も持ってなかった。でもその前に匠が……あ、匠」
「たくみ?」
翼は忘れていた。朝、電話を掛けたときに、バイト後に会う約束を取り付けていたのだった。
「匠と約束してたんだった。あ、匠っていうのは俺の友達な? そいつは透さんにバイク借りられてる」
「んん?」
「もう一人関係者がいるってことだ」
「お前ら……ほんと不運だな……」
「でも僕らが事件解決に尽くすから! 安心してね!!」
神宮のやる気溢れる言葉に素直に頼もしさを感じながら、翼は帰るつもりで秋山親子を見る。
「わかった……でも、私は首を突っ込むのはやめない!」
「それはわかったとは言わない!!」
みちる側にいたよしみはげんなりした顔で二人の話を聞いていた。
「あ、翼、どうしたの?」
「俺、匠と約束してたこと忘れてたからさ、そろそろ帰ろうかと思って」
「そう、私もここにいても親子喧嘩に巻き込まれるだけだから帰ろうかしら」
「じゃあ私も帰る!!」
「みちる! まだ話は終わってないぞ!!」
「まあまあまあ、秋山さん娘さんのこともわかるけど、仕事しましょう、ね?」
神宮に宥められ、渋々お説教を止める秋山。
「みちる、わかってるな?」
「わかってるわかってる」
翼は内心みちるは絶対にわかっていないだろうな……と、思っていた。
「じゃあ修ちゃん、また来ると思うからそのときはよろしくな」
「ああ。じゃあな」
「修ちゃんバイバーイ!」
高校生三人は雨崎に手を振りながら帰っていく。
雨崎と警察二人はそれを見送るのだった。
