第二章 - 6/6

「翼が雨崎の事件に巻き込まれているかどうかはまだ保留だったとしてもだ、俺と翼はお前には巻き込まれてるんだ。さあ、どうするんだ? 透さん」
 匠は透をじっと見つめる。居心地のわるい透は観念したように一度ゆっくり瞬きして、呟いた。
「……そうだね、僕は君たちに助けを求めた時点で君たちを巻き込んでしまっていたね……。でも、僕は本当に君たちを危険に晒すわけにはいかないんだ。だから、僕の事は守らなくていい。その代わり、少しだけ僕のことをこのまま匿っていて欲しいんだ。……絶対に、君たちに危険が及ばないようにするから」
「うん! わかったよ透さん! 透さんの存在が外に漏れないようにすればいいんだね!!」
 みちるは嬉しそうに頷く。
「ここ俺んちだけどな」
 翼の小さな突っ込みに透は困ったように笑った。
「ゴメンね翼くん、あまり長居はしないから」
「あ、いいんです。俺、今実質一人暮らしなんで」
「じゃあ、この件はもういいわね」
「いや、ちょっと待て」
 よしみが場を締めようとすると、匠が横から口を出す。
「何よ」
「翼、事件に巻き込まれたっていってたな。何でだ」
 匠の視線は今度は翼に向いている。
「何でって言われてもなあ、記憶無いからわかんないんだって」
「事件に巻き込まれたのはいつだ」
「うーん、たぶん十六日の夜」
「今日は二十日だぞ」
「うん」
「昨日は? 何してたんだ。終業式来なかっただろ」
「目が覚めたのが昨日だ」
「……は? 昨日? 巻き込まれたのが十六で? 目覚めたのが昨日?」
「うん」
 翼と匠の一問一答を尻目に、よしみはテレビを勝手につける。みちるは持参していた宿題を広げ、透に質問し始めた。
「お前……! 雨崎と同じ手口で襲われてんだろ!? 胸刺されてて昨日の朝まで意識なかったって……!! なんでここにいんだよ!? 入院してろよ!!」
「それさっきも聞いたよ」
「バカか!! 死にかけてるじゃねえか!!」
「死んでないから気にしてないしあんまり気にし過ぎててもしょうがないと思うぞ?」
「そんなのんきでいいのかよ……!!」
「警察も調べてくれてるみたいだし、俺たちが気にしてもしょうがねえよ」
 そう言いながら翼は立ち上がる。
「なんか食うか? 作るけど」
「翼くん、料理できるの!?」
 気を失っていて翼の特技について聞いていなかった透は興味深げに目を輝かせている。
「趣味です」
「いや特技だろ。って! まだ話は終わってねえぞ!!」
「もういいよー……」
 キッチンに向かう翼に匠はついていった。
「あの二人、仲がいいね」
「あいつら同じクラスだからよ。いつから友達なのかは知らないけど」
「でも、いいコンビだね! 私たちみたい!」
「そうかしら……?」

 翼が少し遅い昼食を人数分つくって持っていく。
「チャーハン作ったから食ってけよ」
「わあい! 翼くんありがとう!」
 みちるは広げていた宿題を閉じ、昼寝しているよしみを起こしにかかった。
「よしみー! 翼くんがチャーハン作ってくれたよ! 食べよう!」
「……んあ……。寝てた……」
「チャーハンだからってなめてかかると後悔するぞ! こいつのチャーハン高校生が作るチャーハンじゃないからな!!」
 なぜか匠が自慢する中、翼は持ってきたチャーハンを並べる。
「おいしそうだね、他のレパートリーはあるの?」
 透は感心しながら翼に訪ねた。
「そうですねー、カルボナーラとかよく作りますよ。生麺好きなんで暇なときは麺から作ったり」
「麺から!! すごいね! ……いいな、僕も趣味に使える時間が欲しいなぁ……」
透は少しだけ寂しそうに笑う。
「ねえ透さん、全部終わったら一緒に遊ぼうよ! みんなで!」
 チャーハンを頬張りながら、みちるが提案した。
「……そうだね。みちるちゃん、ありがとう」
 そう言って笑う透の姿が、翼にはやはり寂しそうに見えた。

「あっと! 気づいたらもうこんな時間! 帰らなきゃ!」
 みちるは携帯のディスプレイをみて言った。
「待って! あと少しで真相わかるから!」
「えっ!? じゃあ、見てから帰る!」
 みちるとよしみは二時間ドラマの結末を見てから帰るつもりのようだ。
「じゃあ、俺は一足先に帰るわ。翼、バイクの鍵は?」
「ああ、忘れてた。ほい」
 翼は匠にバイクの鍵を渡した。
「あっ、匠! 秋人には黙っとけよ!」
「言わねえよ! むしろお前の口から言え!!」
 匠は少し傷になってしまったバイクの車体をしょんぼり見つめたあと、帰っていった。

「やっぱり一回見て結末知ってても見ちゃうわよねー」
「うん、三回くらい見たことあるやつだった! さすが山●●紗サスペンス!」
 二人は二時間ドラマを見終わったようだ。どうやら再放送だったらしい。
「さて、じゃあ帰ろっか」
「そうね」
 翼と透は二人を見送りに玄関まで出た。
「二人とも、気を付けて帰るんだよ」
「うん。透さんも危ないことしちゃダメだよ? もちろん、翼くんもね」
「俺が自ら危険を冒すようなことすると思うか?」
「あ、あははは……」
「翼、透のこと見張っててよね」
「おう。お前らも気を付けて帰れよ」
 みちるとよしみはうなずいて、手をパタパタと振りながら帰っていった。