第二章 - 3/6

「ただいま~」
 翼が玄関のドアをあけるとみちるとよしみが突っ立っていた。
「……お前ら、んなとこで何やってんだよ」
「みちるがさっさと上がっていかないのよ」
「だって、男の子のうちに上がるなんて初めてなんだもーん。ドキドキしちゃう☆」
 匠は、乙女心爆発のみちるのことを思いっきり無視して、さっさと家の中へ上がっていく。
「誰? あの眼鏡」
「なにを!? 確かに眼鏡はかけてるが、人のことを眼鏡とは! 失敬な!」
「ま、この際誰だっていいわ。問題はあんたじゃないのよ」
 よしみの言葉に過敏に反応し、匠は明らかに怒っていた。
「つーか、後ろつっかえてんだから早く入れよ」
 二人の言い争いは翼の苛立った声に遮られた。
 みちるたちが靴を脱いでいる間に、匠はリビングにいる男につかみかかった。
「お前、なに人のバイク勝手に乗って行きやがって、しかも事故ってんだよ!」
 匠は男をかくかく揺さぶる。
「ご、ごめんなさい……で、でも……」
「でも……? 何だよ」
「そんな、揺さぶられると……目、回っちゃ……うよ……。ていうか……まわ……」
 男はかくーんと気を失ってしまった。
「な、なんだ……? 気絶しちまった……」
「あ~あ。その人けが人だって、言ったはずなのによー」
 三人でリビングまで来る。そこで、翼はかなり大げさにため息をついた。
「わ、悪い……。でもなんでお前がこいつの看病してんだよ?」
「そうよ。アタシたちもそれが気になってたの」
 翼の後ろからソファに移動しながら、よしみは言った。
「なんか……匿ってくれっていわれた」
 翼は三人の分のお茶を用意しにキッチンに立つ。
「しかもこの人、気絶する前にすっごい意味深な事言ったんだよ。アイツらがどうとか」
 お盆に麦茶の入ったコップを四つ乗せて持ってきた。
「アイツら……? 誰かに追いかけられてるのかしら?」
 よしみは麦茶を飲みながら素直な意見を述べると、みちるはわくわくしたようにこう言った。
「そうなんだよ! きっとこの人はなにか持ってて、それを悪い人から守ってるんだよ!」
「そんな、マンガみたいな事ホントにあんのかよ?」
「でも、俺のバイク乗り逃げしたときに、後ろから追いかけられてたな」
「……じゃあ、その線が有力なのかも……。とにかく、本人に話を聞いてみないことにはどうしようもないな」
「すいませーん。起きてくださーい」
「って、いきなりかよっ!」
 みちるは話が一区切りついたところでいきなり男を起こそうとしている。
「え、だって事情を聞きたいんだったら早い方がいいかなー、と思って」
「だからって……けが人だぜ?」
「そんなこと言ったら翼くんだってそうじゃん。後頭部を一撃必殺だったでしょ?」
「俺とこの人じゃ全然違うでしょ。俺は現役高校生で意外とタフだからいいけど、この人はわからないでしょ? ていうか一撃必殺だったら俺死んでるし」
「あ、そっかぁ。じゃあ、どうする? 起きるまで待ってるの? 暇になるねー」
 みちるは翼の説得に妙に納得し、困ったように眉を寄せた。
「そうだなー……。あ、こういうときは翼に手作りケーキを作ってもらおう」
『えっ……!』
 三人は一斉に匠の方に向く。
「翼くんってケーキ作れるのっ!?」
「はあっ!? ケーキ作るのに何分かかると思ってんだよ!」
「こんな今時の高校生みたいなヤツがケーキ!? 嘘でしょ?」
「えっ、そんな、全員いっぺんに喋るんじゃねぇよ!!」
 四人でぎゃーぎゃー騒いでいるうちにソファに寝ていた男が目を覚ましてしまった。