第一章 - 4/6

「ねえ、よしみ! 今日はあの不良たちいないよ!」
「あら、本当。奴らもようやくあたし等の強さがわかってきたようね!」
 彼女たち二人は児童公園の木陰目当ての人間だった。
「みちるっ! ちょっと、人が倒れてるわよ!」
「ホントに!? まさか、不良たちにやられちゃったのかな!?」
 みちると呼ばれた方は木陰に向かって走り出した。
「あっ! みちる、ちょっと! 待ちなさいよ!」
「ねえ、よしみ、この人うちの高校の制服着てる」
 みちるは振り向いてよしみに言った。
「うそっ! 本当だ。学年もたぶん一緒よ。鞄の中に体育着が入ってるわ」
 みちるとよしみは倒れている翼の横にしゃがんで声を掛け始めた。
「おーい。大丈夫ですかー? 返事してくださーい」
 翼は(よかったー!)と思いながら返事をした。
「……はーい。でも大丈夫ではないです……」
「おっ! よかった。意識はハッキリしてるみたいね。で、あんたどうしたの?」
「昼寝してたらからまれて……うっかり手が出てしまって……こうなった……」
「君! やっぱり不良たちにからまれたの!? で、その人たちは?」
「逃げてった……」
「つ、強い……。ん? でも勝ったんでしょ? 何でそんなにぐったりしてるの?」
「みちる……あんたバカ? 手が出ちゃったってことは必然的に喧嘩になるじゃない。あいつら複数で来てるでしょ? そこにこいつ一人よ? 一対多で怪我しないわけないじゃない」
「あっそかそか、そうだよねー。忘れてたー。あはは」
 翼は(それだけじゃないんだけどね)と思いながら二人の話を聞いていた。
「で、あんた。怪我の手当てするでしょ。動ける?」
「まあ、とりあえずは」
 ずっと同じ状態のままじっとしていたので、ちょっぴりだが体力が回復して動けるようになっていた。
「もしもし。お母さん? 今から帰るけど、けが人発見したから連れてくね。えっ? 布団? 必要ないない。うん。ケンカしたみたい。大丈夫だって。怖くないから。じゃあ、お願いね」
 みちるは電話を切るとにこっと笑った。
「じゃあ、私のおうちに行こっか!」

「はい! ここがうちでーす。ここに座って待っててね」
 翼はみちるに促されて縁側に座った。するとそこに救急箱を持ったみちるの母が現れた。
「まあ、せっかくのハンサムなのにぃ……これじゃ台無しじゃないの」
「はあ……そうですか?」
「そうよー。口の端っこ切れちゃってるし、ほっぺたとかおでことか擦り傷できちゃってる上に、肘とか膝とか腕とかが青あざになっちゃってるじゃない」
 おそらく擦り傷は病院でガーゼが貼ってあって気づかなかったところだろう。
 そう思いながら延々と話を続けるみちるの母の声を聞いていた。
 みちるの家の中を覗くと彼女が何かを探している様子が見える。
「あっれー? おかしいなあ……。ここに確か入っていたような……。お母さーん! ガーゼどこー? ないよー?」
「そんなことないわよー。いっつも持ち帰ってきては引き出しの中に入れてるんだからー」
 みちるの母は不満げにみちるを見た。
「ねえ……ガーゼとかって、もしかして、これ?」
 よしみの声に反応してみちるが近づく。よしみの指の先に視線を移すと、プラスチック製の透明な引き出しの中にぎっしりガーゼや包帯がつまっていた。
「あ、本当だー! よしみったらすっごーい!!」
「それはあんたがボケてるから気づいてなかっただけよ」
「あ、あはは……。まあ、ガーゼも見つかったし。ちょっと、来て来て」
 みちるに手招きされ、翼は少し困惑した。
「えっ? でも、上がっちゃっていいの?」
「うん、いいよいいよ。靴脱いでくれれば」
「いや、普通靴は脱ぐだろ」
 言われたとおりに靴を脱ぎ、家に上がるとすぐに座らされた。
「よし! まずは消毒ですっ。おでこから! マッ●ロン、マッキ●ン♪シュバッ♪シュバー♪」
 みちるは消毒を始めると同時に謎の歌を歌いだした。
「あっ、ちょっ、目、目に!」
 額の擦り傷に消毒液を吹き掛けられる。だーっと垂れた消毒液が容赦なく翼の目を襲った。
「あれっ?」
 何かに気づいたようにみちるは歌と手を止める。
「そういえば、名前聞いてなかった。あなたはなんて名前?」
 翼は消毒液が入った方の目をこすりながらいった。
「俺? 俺は山下翼だ」
「へえ、翼くんていうんだー。私はみちる。秋山みちるだよ。よろしくね」
「私は河野よしみよ」
 翼はうんうんとうなずきながら聞いているとちょっとしたことを思い出した。
「そういえば、俺を発見したとき、二人とも同じ学校で同じ学年だって言ってたよな?」
「うん。いってた。聞いてたんだね」
「あたしたちは二ーAよ。あんたは?」
「あっ……そうか。通りで……」
「なあに独り言いってんのよ」
 翼がなにやらぶつぶつ呟いているところをよしみにつっこまれた。
「ああ。俺は二ーBなんだけど、二人の名前聞いたことあるなーと思って」
「なんで、なんで?」
「えっ!? あたしたちそんなに有名なの?」
「いや、不良を追い払ったっていう話を聞いたから、すっごいのを想像してたんだけど、結構普通で安心したのと同時に期待はずれだった」
 翼が無表情のままそういったので、二人は怒る、というよりもつっこみのタイミングを逃してしまったらしい。少しの間沈黙が流れた。
「でも、不良を追い払ったっていっても翼くんと喧嘩したあの不良だよ? それにあたし自体はなんにもしてないし」
 沈黙を破ったのはみちるだった。
「えっ? あいつ等強かったぞ? どうやったら追い払えるんだよ?」
 その質問に答えたのはよしみだ。
「それはね、あたし等が女だと思って油断してるうちに、不良の一人の腹を殴って気絶させてやったのよ。そしたら残りの奴らがビビっちゃって気絶したやつを担いで逃げてったってわけ」
「いや……普通、女が男を殴って気絶させるなんて想像しないから……」
 翼は、小さな声で呟く。幸いにも、よしみの耳には入っていないようだ。
「はーい。手当て終了☆こんなんで大丈夫かな?」
 話しているうちにみちるの手は動き出していた。手際がよく、ほんの二、三分で済んだ。
「うんうん。ありがとう。大丈夫そうだ」
 翼はぺこりと頭を下げてお礼を言った。と、そこへいままでいなかったみちるの母がやってきた。
「ねえ、翼くん。もうお昼だし、おそうめん食べてかない?」
「えっ、そんな悪いです」
「いいのよ、遠慮しなくても。大勢で食べた方がおいしいって感じるでしょ?」
 みちるの母は意外と強引に翼を食事の席に呼んだ。ここまでされると断れないので、素直に応じることにした。